Room No.1122

ゆるっとデンマーク映画やデンマークについて書いています。たまにオランダの話題も…。

2021年一本目のデンマーク映画、『ある人質 生還までの398日』

2月19日から劇場公開されている『ある人質 生還までの398日』を観た。

監督:ニールス・アルデン・オプレヴ、共同監督:アナス・W・ベアテルセン、脚本:アナス・トマス・イェンセン。

デンマーク映画、さらに脚本はアナス・トマス・イェンセンということで期待大。共同監督のベアテルセンは、交渉人のアートゥア役も務めている。彼は、『ミフネ』、『幸せになるためのイタリア語講座』などにも出演していて、私の中で若い頃の印象が強かったが、本作のような渋い雰囲気もいいなと感じた。

 

本作は、体操選手から写真家に転身したダニエル・リューが、戦場カメラマンの第一歩として訪れたシリアで現地武装勢力に拉致されてしまうところから始まる。この映画は、実話に基づいた物語だそうで、原作(著者:プク・ダムスゴー、訳:山田美明『ISの人質 13ヶ月の約束、そして生還』光文社新書)がある。

全体の感想として、観る前に思っていたより救いがある描き方をしているなと感じた。普段辛い北欧映画を観すぎているせいなのかもしれない。もちろん残酷な行為が表現されているので、見るのが辛くなるシーンが多くある。

物語の中心は武装勢力との交渉だが、人質の交渉を通してデンマークアメリカの関係が抱える問題を投影しているような印象も受けた。人命の前には国家と国家の関係が立ちはだかっていることを強く意識させられた。

また、いわゆる第三世界を扱っているデンマーク映画が指摘されがちな視点として、第三世界側からの視点が弱い点は、本作でも気になる。紛争地域の民間人はこのような危険に毎日晒され続けているということや、武装勢力側からの視点などがもう少し盛り込まれてもよかったかと思う。しかし、実話を基にしているいることもあって難しいところなのだろう。

 

他方で、本作を脚本家イェンセンの作品として観た時、いい意味でイェンセンらしさを感じない作品だった。カメレオンのように状況に適応するのがうまい、そういう彼らしさが表れていると思った。早く最新の監督作が観たいなー。